デザインダイアローグコペンハーゲン

デンマークのコペンハーゲンでのデザイン留学を通して考えたこと

デザインと特許の話

デザインスタジオ、デザインスクールの中では数多のプロジェクトが生まれては死んでいきます。私は以前から、質を生むためには量が重要であると信じていますので、これに関してもったいないとか、無駄だとか言うつもりは毛頭ありません。だけれど、日々生まれては消えていくプロジェクトを見ながら、もっと活かす事が出来るのでは?と考える事がよくあります。

私が日本で働いていた時は、日常業務の中に特許提案が入り込んで居ました。部署のミッションとしては新規事業検討だとか研究開発などでしたが、毎年特許提案のノルマがありました。それこそ雑巾を絞るように、今検討中の製品や機能をどうすれば特許化出来るかと考えるような環境でした。そのおかげで、日本企業としては特許登録件数でここ10年以上1位をキープしており、それが競争力を支える要素であったとも言えるわけですが。

それに対してここCIIDでは、特許に関する話を聞いた事がありません。もちろん、デザインスクールと言う性質上、ここで重要な事は、いかにしてユーザを理解して、いかにして新しい物を生み出すか、いかにしてそれをビジネスにつなげるかなどですから、特許に関する話のプライオリティが低くなるのはわかります。真面目に特許の話なんかしだしたらあっという間に時間が過ぎてしまいますし、学生に対してまともに特許書けるように教育しようと思ったら、それだけで半年やそこらの時間が必要になってしまうはずです。

では、実際問題、デザインの現場で特許の事を考える必要はあるのでしょうか。幾つかのパターンにわけて考えて見たいと思います。

デザインファーム、デザインスタジオの場合

こういった現場の場合、企業から依頼を受けて仕事を行う事が一般的かなと思います。仕事の内容や仕事の形態としては、色々かなとは思いますが、将来の新規事業であったり新商品に関する仕事が多いのではないかと思います。

ただし、ここで取り組んだ事がそのまま事業になるかと言うと、そういう場合ももちろんあるのでしょうが、比較的少ないのではないかと思いますし、そもそも事業化までそれなりに時間がかかる事が多いのではないかと思います。そういう意味では、特許の出願件数を稼ぎたいと言う場合を除けば、デザインファームとして仕事を受けている段階で特許検討を行うのは時期尚早と考える事も出来るでしょう。

しかしながら、デザインファームのアウトプットのひとつとしてプロトタイピングがあります。プロトタイピングを行う際には「アイディアがどう動くか」「どのようなタッチポイントがあるか」「ユーザにとってどのようなベネフィットがあるか」と言う点の検討を行うわけで、実はこれさえ明確になっていれば特許出願するのってそこまで難しく無いはずです。実際に特許出願まで持って行かなくても、実際の事業化に向けて、検討だけはしておくと言うのは大いに考えられるパターンだと思います。

また、事業化までは行かなくても、自分たちのためのプロジェクトなどに関して特許検討を行うのは、将来的な収入源となる可能性があると思います。

起業する場合、スタートアップの場合

起業する場合、自分たちのアイディアは事業化がほぼ決まっていると言っても過言では無いわけですから、それをいかにして守るかと言う点がポイントになると思います。そういった点において、特許を有効に活用する事が成長のための鍵になる事もあるはずです。その他にも、例えば下記の記事にもあるように、それなりに意味があるようです。

ipfbiz.com

しかしながら、スタートアップの場合、十分なリソースが無い事も事実で、開発にリソースを割かなければならない状況でどこまで特許のことを考えるかという問題もあります。特許と言うものは出願したとしても公開、登録までに結構な時間がかかるのが常でして、刻一刻と状況が変わるスタートアップにおいて、これらの有効性には議論の余地があるとも言えます。

大企業の場合

大企業の場合は、特許の持つ意味というのが比較的に複雑になっています。例えば、特許出願を会社としての戦略として位置づけている場合があります。こういった場合は将来の製品化とは関係なく特許の出願を行う事が良くありますし。自社製品を守るだけでなく、他社への牽制であるとか、将来のクロスライセンスの材料にするなど様々な活用方法が考えられるからです。また、通信まわりの特許などはそれを標準化を見越して自社で特許を抑える事もありますし。

また、少し不毛と言えるかもしれませんが、特定の技術の開発者を明らかにするために、逆に言ってしまえばThank you for ideaと言う感じで他のチームが開発した技術を使って成果をあげた場合に、技術開発チームを評価するために特許などを使うと言う場合もあるかも知れません。

で、結局どうなの

いくつかのパターンにわけて考えてみたわけですが、結局のところ特許または特許制度をどのように自社で活用していきたいかと言うところがポイントになりそうな気がします。将来的に自分たちの持つ特許をライセンシングする事によって、それをひとつの収益源としたいですとか、自分たちのアイディアを競合から保護したいですとか、オープンイノベーションを推進したいですとかであれば、デザインプロセスに特許検討のプロセスを組み込む事のメリットがあると思います。

また、個人的にはデザインプロセス自体が特許検討と比較的親和性が高いと思っていますので、最終的にはリソースですとかとの相談にはなってくるものの、特許検討が有効に活きるシーンと言うのは少なくないのではとも思っています。

では、どうすればデザインプロセスに特許戦略を組み込めるか。これについては次回にでも。

iPhoneにはなぜ「戻る」操作が無いのか

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iPhoneを購入してから約2日が経ちました。世間はiPhone 7の発表に湧いているようですが、購入したばかりのiPhoneを楽しく触っている私には関係の無い事です。

iPhone SEの新型が発表されたわけじゃないし、値段もそれなりに高いしと自分に言い聞かせています。

さてこれまでAndroidを使って居た私、iPhoneにまともに触るのは実に5年ぶりぐらいなんですね。さすがに2日も使っているとある程度慣れてきたとは言え、いまだに慣れないのが「戻る」と言う行為について。

Androidを触ったことが無い方はご存知無いかもしれませんが、Androidの場合、ホームボタンの左側に「戻る」ボタンがハードウェア的に用意されていて、それを押せば大抵のアプリでは前の画面に戻る事が出来るようになっています。

ところがiPhoneには「戻る」ボタンがないので、アプリ開発者が自分で「戻る」を実装しなければならないのですよね。しかしこの「戻る」の実装方法がアプリによって全然違う。例えば私がぱっと思うつくだけで、こんなにあるわけです。

  • 左上の戻るボタン(大きいサイズ)
  • 左上の戻るボタン(小さいサイズ)
  • 右上などに☓印
  • 画面を左から右にスワイプ

たかが4種類とは言え、どうやったら前の画面に戻れるかを都度自分で判断しなければならないわけです。一応、多くのアプリは画面を左から右にスワイプすることによる「戻る」操作に対応しているようですが、それでも全部が全部対応しているわけではなく…。そんなわけで、前の画面に戻りたくなったらとりあえず「戻る」ボタンを押せば良いAndroidと比較すると、結構な煩わしさだと思うんですよね。

で、ふと思ったのは、Androidに慣れたユーザと、iPhoneに慣れたユーザでは、下記のようなワークショップをやったとしても、アウトプットの方向性が違ってくるだろうな、と。

ddcph.hatenablog.com

上記で説明したのは「戻る」ボタンに就いてなのですが、他にも細かい部分で、iPhoneアプリのデザイン傾向とAndroidアプリのデザイン傾向って違う気がするんですよね。そういった自分の持っている当たり前が違うと、当然新しく何かを作る時にもその当たり前を無意識に適用してしまうはずです。

そして逆に言うと、iPhoneとAndroidにはそれぞれ異なる文化があって、アプリ開発者はそれに合わせてデザインすべきなんだろうなという事。当たり前と言ってしまえば当たり前なんでしょうが。

最近ではXamarinやUnityなどもそうですが、マルチデバイス対応の開発環境が普及してきて、複数のデバイス向けのアプリであっても比較的容易に開発が可能になってきています。しかしながらGUIに関してはiPhoneやAndroidと言ったそれぞれのデバイスに向けて作りこんで行くことが必要になるんだろうなぁと思った次第。

ポートフォリオについて

今週はポートフォリオウィークと言うことで、授業は無いのですが各学生に各自のポートフォリオを充実させるようにという指示が出されています。

ポートフォリオと言うのはCIIDのWeb上で公開されているものもあれば、各自が自身のWebサイトを持っている場合もあります。自分のこれまでの経験を見える形で外部に公開するというのは、デザイナとしては一般的なスタイルであり特別なことでは無く思います。

デザイナと言う職種が他の職種、例えば事務職であったり工場作業者などとは異なり、個人の名前で仕事をする事が珍しくないからと言う事もあるでしょう。また、デザイナと言う職種だけでは何が出来るのかが良くわからない程に、スキルや志向の幅が広いからというのもあるでしょう。

スキルの違いと言うのはある意味わかりやすいのですが、センスやテクニックに関してはポートフォリオが語る事は多くあるのかなと思います。例えば、グラフィックデザイナですと名乗る人が何人か居たとして、彼らに同様のブリーフを渡して仕事を依頼しても、それぞれのデザイナのアウトプットが全然異なると言うのはよくある話ではないかと思います。

これが例えば工場で働いている職人さんに設計図を渡して「こういうものを作ってください」と依頼して出てくるものが職人さんによって全然違ったら問題ですし、経理の仕事をお願いしたのに担当する人によって計算結果が違ったら何を信じて良いのかわかりません。

このように、アウトプットのバラつきが大きいのは、逆に言えば依頼したい仕事の内容を明確に定義する事が難しいからと言う事も出来ますし、裁量の余地が大きいからと考える事も出来ます。そして仕事を依頼する側としても、仕事を明確に定義しない事による振れ幅の大きさをデザイナに期待している一面があるような気もします。

例えば、システム開発の案件を依頼しようと思った際に、いきなり実際の開発に入るのではなく、まずはコンサルティングのような契約を行い、仕様策定を行う事があるかと思います。

しかしながらデザインの場合、仕様策定しようにも難しいですから、デザイナーがコンサルティングの部分も含めてやる事が多くなるのかと思います。そうすると発注者としてはそのデザイナの過去の仕事を見た上で、どのデザイナに発注すべきかを考える事になるでしょう。そういった際にポートフォリオと言うものが生きてくるわけです。

これは例えばフリーランスのような形で仕事を受けるときだけでなく、就職活動などを行う時でも同様で、その人がどのような仕事が出来るのかを推し量る上で、ポートフォリオが非常に重要になってくるのだと思います。

私の場合は、これまでの経験もそれなりにありますから、この1年間で取り組んだプロジェクトの内容によって今後のキャリアが大きく変わると言う事も無いとは思うのですが、この機会を利用して自分のWebサイトのブラッシュアップなども含めて、諸々取り組んで見ようかなと思う次第です。

デンマークでiPhoneを買った

iPhone

これまでNexus 5Xを使って居たのですが、Android 7.0にアップデートしたところ、ひたすら再起動を繰り返すようになってしまいました。

デジタルデバイスから解放された生活もたまには良いかも等と思っていたりもしたのですが、さすがに外出中に友人と連絡を取れないのも不便きまわりない、と言うことで、代わりの携帯電話を購入してしまいました。

購入したのはiphone SEの16GBモデル。当然ながらSIMロックフリーです。当初は、これまで使ってきたAndroidをまた使い続けようかと思ったのだけれど、iPhoneは3GS以来使ってないし、ここらへんでもう一度iPhoneを使って見るのも良いかなと思ったのです。

さて、買うにしてもどこで買うのが良いのか。Googleで色々検索してみると、powerという電気屋さんのサイトで2990DKK(約45000円)となっており、これが一番安いようだったので、ここで購入することに。

www.power.dk

お店に行って店員さんに確認を行ったところ、ここに置いてあるのは基本的にSIMロックはかかっておらず、ヨーロッパの他の国に行っても対応するSIMカードを挿せば使えるよとのこと。これは多分日本でも同様で、帰国後、適当なSIMカードを挿せば使えるはずです。

で、これを下さいと言うと、アクセサリはいるか?ということを確認されたので、その辺にあった安いケースと画面保護用のスクリーンを購入。スクリーンをiPhoneに貼る代行サービスを99DKK(1500円程度)でやっているようですが、それぐらい自分でも出来るだろう、と思ったので自分でやることにして断ってしまいました。

久々のiPhone、昔使っていた時と大分勝手が変わっていて戸惑うこと多いですが、早く慣れられると良いな。

CIID10 Lightning talk

Lightning

CIID10 3日目、4日目はひたすらアンカンファレンス形式でライトニングトークが行われていました。

アンカンファレンスと言う形式は、日本でもチラホラ見かけるようですが海外では結構多いようでして、自分が話したいことをみんなの前でひたすら話すると言う形式。制限時間は7分間でしたので、そこまで多くの事を話出来るわけでも無いのですが、みな思い思いの事を発表して居て面白かったです。

アンカンファレンスと言うとどうしても、ちゃんとした格式張ったカンファレンスに比べて格下なのかなと言う印象もなくは無いのですが、Arduino創設者のマッシモバンジ氏を始めとして、結構な大御所も普通に発表したりして、こういう文化なのかなぁとか思ったりもしました。

CIID 10 Impact Minds

下記の記事ではCIIDのオープンハウスについて紹介しました。

ddcph.hatenablog.com

ddcph.hatenablog.com

ddcph.hatenablog.com

実はこのオープンハウスはCIID10と呼ばれる創立10周年記念イベントの一環であって、CIID10では他にも様々なイベントが企画されていました。

そのひとつが掲題のImpact Mindsと呼ばれるカンファレンス。コペンハーゲンのUN Cityで行われおり、参加者はおおよそ300名程度と言ったところでしょうか。CIID関係者はもちろん、Novoなどスポンサー企業からも多くの方が参加しており大変な盛り上がりを見せていました。

 

CIIDオープンハウス@リサーチおよびコンサルティング部門

さて、お次はリサーチ部門です。CIIDのリサーチ部門は、実は私もほとんど接点がないので、どんなことをやっているのかよくわかっていないんですよね。とはいえ、CIIDはとても小さな組織ですし、キッチンなどは共用ですからリサーチ部門の人の顔を見れば挨拶もします。名前と顔が一致しない人が多い事も確かなのですが、どんな人がそこにいるかという意味では、なんとなくわかっているという関係。全然知らないわけでもないけれど、よく知っているわけでも無いという中ぐらいの距離感です。

上記はオープンハウス当日にリサーチ部門の前に掲げてあったポスターなのですが、これ読んでも具体的に何をやっているのかはわかりませんね。書いてある事はわかるものの、コンサルティング部門と何が違うのかよくわからないし。と言うことで下記に示す、コンサルティング部門のポスターを見ながら読み解いて行こうかと思います。

コンサルテイング部門の内容は非常にわかりやすくて、簡単に言ってしまえば企業がイノベーションを起こすお手伝いをしますという事なのですよね。つまり逆に言えばリサーチ部門ではそれ以外のこと。もっと本質的な事であったりだとか、デザインプロセスそのものの研究をしているという事なのかなと言う感じ。

ちなみにコンサルティング部門のオープンハウスは大変面白くて、1日書けてオポチュニティの抽出からソリューションの提案までをみんなの前まで行うと言うデモンストレーションを行っておりました。こういう形で仕事を見せるってのは非常に面白いなぁと思ったり。