デザインダイアローグコペンハーゲン

デンマークのコペンハーゲンでのデザイン留学を通して考えたこと

テクノロジードリブンとデザインドリブンなスタートアップ

こちらに居てやはり意識するのが、このアイディアをどうやって事業に繋げるかと言うこと。他の学生さんと話をしていても、バックグラウンドとして起業していたと言う人はやはりそれなりに多いし、卒業後は起業したいと考えている人だって珍しくない。

ところでひとくちに起業と言っても、いくつか種類があると思うのですが、それらを区別せずに話をしてしまう事が多い気がするので、自分での整理のために少し書いて見ることにしました。

スタートアップ企業の種類

スタートアップには大きく分けて2つの方向性があるように思っています。

ひとつはテクノロジードリブンや、研究開発型と呼ばれているのですが、例えばGunosyのように、元々コアとなる技術があって、それの応用としてニュースキュレーションと言うサービスをかたちにする会社。他にも、ぱっと思いつくところですと、小型人工衛星開発のアクセルスペースや、ミドリムシのユーグレナや、私もお世話になっていますが月面ローバー開発のiSpace(チームハクト)などがこの分野に入るのでしょうか。海外だと、Amazon.comで培った技術を展開したAWSなどもこちらに入るのかと思います。

もう一つは、デザインドリブン、ユーザドリブンと呼ばれる企業です。これらの企業ではまず自分たちの製品のデザインを行います。つまり、ユーザのニーズや解決したい課題にターゲットを定めます。本を簡単に手に入れたい人のためのAmazon.comだとか、ドライバーと乗客のニーズをマッチングさせるUberですとか、大家と旅行客のニーズをマッチングさせるAirBnBなどがこれに含まれるのかも知れません。あとは強いて言えば家電スタートアップのCerevoだとか、最近のAppleだとかも、デザインドリブン企業に入るのかと思います。

ただし、上記分類は、私の独断と偏見によるもので、特に根拠があるわけではありません。これらに関してツッコミ等ありましたら大歓迎です。

創業プロセスが異なる

これらの二種類のスタートアップを同じものさしで評価する事は不可能ですし、支援のあり方についても検討しなければならないのではいけないのでは?と思っています。 

 例えば、テクノロジードリブン型スタートアップの場合は、その技術に競合優位性がどの程度あるのかだとか、その技術の応用がどの程度考えられるのか、で評価される事が多いように思われます。これから研究開発を初めて起業すると言う場合だと、創業者にどの程度の専門性があって、その技術を開発出来そうか否かあたりを評価されるのかな。

ただし、研究開発型スタートアップの場合、実用化までそれなりに時間(数年単位)がかかる場合がありますし、更にそれが収益に結びつく割合はそれなりに低いので、リスクは比較的高いと言える気はします。例えば経産省による研究開発型スタートアップ支援の資料が下記にあるのですが、これによると助成件数が約800件で約800億円を助成しているにも関わらず、そのうち実用化に繋がったのが110件。さらに収益化に繋がったものは僅か8社で、収益額も合計3.5億円と非常に成功率が低くROIが低い事が現状となっています。当たれば大きい、と言う可能性はあるのでしょうが。

http://www.meti.go.jp/committee/summary/0001620/036_05_00.pdf

一方で、デザインドリブン型スタートアップの場合は、まず顧客が誰なのか、どのような価値を提供するのか、そしてそれによってどれぐらいの利益を見込めるのか、市場の競合状況がどうなっているのかを考え、それらを検証していきます。もちろん検証した結果、ニーズが無かったとか、仮説が間違っていた等の可能性はあるので、リスクが無いと言う訳ではないのでしょうが、比較的ROIは高くなりやすいのかなと思われます。

ユーザードリブンイノベーションに関しては下記の資料が非常に興味深い内容となっています。 テクノロジードリブンイノベーションは工業化時代は非常に強い手法であったが、現代ではそうではなくなってきていると書かれています。

http://www.euc2c.com/graphics/en/pdfs/mod3/userdriveninnovation.pdf

日本政府はデザインドリブンスタートアップを支援しない?

さて、ここで疑問があります。例えば北欧では政府が積極的にデザインドリブンなスタートアップを支援してイノベーションを創出しようとしています。この結果、北欧型スタートアップは、既存技術の活用や新しいアイディアによってビジネスを生み出す方向性が多いように感じます。

これに対して日本では研究開発型ベンチャーに対する支援と言うのは多く聞きますが、デザイン型ベンチャーに対して仮説検証プロセスそのものを支援しますと言うのはあまり聞かないような気がします。つまり、日本のスタートアップは技術ドリブンであることを暗黙的に求められているのかも知れません。

事実、デザインドリブンで日本で起業した経営者の人と話をしていても、スタートアップなんだから技術力を高めないと行けないと言う事を言っていたりして、これはもしやスタートアップにおける研究開発に対する強迫観念というのは相当に強いのだろうかと心配になってしまう。 

もちろん、シード期に特化したアクセラレータはそれなりにあるので、全く支援が受けられないと言う訳ではないのでしょうけれど、これは何故なのだろう?と疑問に思います。

なお、デザインドリブンの場合に技術力が必要ないと言っているわけではなく、北欧に置いても、デザインとテクノロジーの両者が手を取り合う事が重要であるというコンセンサスは取られているようです。