デザインダイアローグコペンハーゲン

デンマークのコペンハーゲンでのデザイン留学を通して考えたこと

マーケティングリサーチとデザインリサーチの違い10個

製品やサービスが想定するターゲットについて調べる事は、ビジネスを行う上で非常に重要であるということは間違いがありませんが、混同されることも多いのがマーケティングリサーチとデザインリサーチのふたつ。これらがどのように違うのか授業でも触れたので、ノートを元に少し書いてみる事にします。

1. 既存製品やサービスを改良することが目的 vs 新しい製品やサービスのアイディアを創出することが目的

まず、それぞれの目的が違います。マーケティングリサーチは既存の製品やサービスを改善するために行われることが多いのですが、デザインリサーチは新たなイノベーションを起こすための目的で行われる事が多いように思います。

これまでの延長線上には無いような製品を作り出すためには、従来のマーケティングリサーチでは不十分である場合が多いからだろうと思います。ではなぜ、従来のマーケティングリサーチが新しい製品やサービスの開発に向かないのかを説明していければと思います。

2. ニーズは明らか vs 新たなニーズを探す

マーケティングリサーチの場合、対象となる製品の顧客にニーズは明らかです。例えば電球を作っている会社の例であれば、部屋を明るくしたいと言うのが顧客のニーズだとして考えるでしょう。ところが、デザインリサーチでは、顧客すらも気がついて居なかった新しいニーズを探す事を試みます。

新しいニーズの例として、例えばPhilipsは数年前にスマホで自由に操作出来るLED照明Hueを発売したのですが、これは従来のマーケティングリサーチからは生まれなかった商品だと、私の周りでよく話題になっています。

trendy.nikkeibp.co.jp

他の例として、私が最近知った事例を紹介すると下記の2つ。Bstowは慈善事業に協力したいと思っている人はそれなりにいるけれども、それが面倒だと感じる人向けのサービスですよね。慈善事業に簡単に協力出来たら良いのに。文字にしてみると当たり前の事でしかありませんが、新しいニーズを探した例として考えても良いと思います。

www.techdoll.jp

こちらは先日私がブログで書いた記事の紹介になってしまうのですが、レストランと顧客のニーズを見つけ出し上手くマッチングさせている例だと思います。

ddcph.hatenablog.com

3. 統計を重視する vs 個人に注目する

マーケティングリサーチでは統計データを多用します。数字は適当ですが例えば、10代の80%1日に3時間以上スマホを使用するとか、30代の70%は、朝テレビを見るとか。そしてこれらの情報をもとに、新たな企画を行います。

しかし残念なことに、世の中に普通の人ってのは実際には存在しません。仮に5個の項目で全人口の70%の人がAである、というデータがあったとして、そのすべての項目でAである人は、全体の20%も居ないのです。

デザインリサーチでは統計データよりも、個々の人に注目します。一人の人に対してじっくりとインタビューをしたり、一緒に行動したりするなどして、理解を試みます。そしてその人が本当に必要としているモノを考えるわけです。もちろん、実際にはこれを複数人に行う場合もあるでしょうが、とにかくその人がどんな人であるか、どんな課題を持っているかを理解する事。ここから始まるわけです。

4. 制御された環境下での調査 vs 普段の行動を通しての調査

マーケティングリサーチではフォーカスグループの手法なんかがよく使われますが、デザインリサーチでは、コントロールされた環境下でのユーザの声にはあまり意味が無いと考えられています。

例えば、下記の例は有名ですが、顧客を集めてどんなお皿が欲しいかと聞いたら黒い四角いお皿が欲しいと言う意見になったが、お土産に好きなお皿をどうぞと言ったら白くて丸いお皿を持って帰ったと言う話があります。

cibea.jp

他にもちょっと出典を見つける事が出来なかったのですが、子育て中のお母さん方を集めて意見を聞いたところ、オーガニック食品にこだわって居ると言う話を伺う事ができたが、後日、家庭への訪問をお願いしたところ、実は見栄を張っていただけで、ファーストフードばかりの食生活である事を打ち明けられたなど、このような事例は他にも色々とありそうです。

そういえば、同じくコペンハーゲン滞在中の上平先生が下記のようなブログを書いて居ましたが、タイガーの製品開発においても同じような問題意識を持っているのかもしれません。

kmhr.hatenablog.com

では、デザインリサーチではどういうことかというと、ユーザーが普段過ごしている環境での観察を試みます。例えば、新しい調理器具開発に関するデザインリサーチであれば顧客の台所にお邪魔して、どのように料理をしているのかを観察することになるでしょうし、子供のためのおもちゃを開発するのであれば、ご家庭だとか、保育園だとかにこちらから出向き、子供がおもちゃでどうやって遊んでいるのかを観察するなどし、実際に顧客が何を望んでいるか、どういった課題があるかを抽出を試みていきます。

5. 定量的なインタビュー vs 定性的なインタビュー

マーケティング・リサーチの場合、予め聞きたい事をリスト化しておき、複数の人に同じような質問を投げかけることが多いように思うのですが、デザインリサーチの場合は真逆です。

例えば釣具に関する製品開発をするのであれば、釣りが趣味な人に釣りに行くとき同行させて下さいとお願いし、その場で更なるインタビューを行ったりするかもしれませんし、釣具店に一緒に言って、釣り用具について会話をするかも知れません。これは、インタビュー対象となる人によって全く異なる内容になるでしょう。しかしながら、こうした活動を通して新しいアイディアを得られることも多いと思われています。

6. 典型的なユーザに注目する vs エクストリームユーザにも注目する

例えば調理器具のデザインをする時に、マーケティングリサーチの場合は例えば主婦にターゲットを絞り、主婦がどのような製品を欲しいのかなどを調べるでしょう。ところがデザインリサーチの場合は、主流ではないユーザにも注目します。

例えば子どもやお年寄りだったり、普段外食ばかりで台所に立たないような人だったりでしょうか。ここで面白いのは、こういった活動は必ずしも、子どもやお年寄りをターゲットにした調理器具を作る事を目的にしているわけではないと言う事です。

例えば子どもやお年寄りに注目して既存の調理器具について調査してみると、一部の長期器具を扱うには結構な握力が必要で、子供やお年寄りには大変だと言うことがわかったとします。

で、握力が無くても使える製品を開発して、主婦層に試用してもらったとしましょう。主婦層は普段から使い慣れているから、そこまで苦痛には思っていなかったけれども、言われてみればこれはもっともだし楽に使える道具があれば欲しいわ、と言う話になるかも知れません。

このように、エクストリームユーザに注目することで、メインユーザーだけを対象にリサーチしていたのではわからなかった、これまで埋もれていたニーズを浮き立たせる事が出来るかも知れません。

7. 客観的な分析 vs 体験を重視する

マーケティングリサーチだと、論文や調査レポートを見て、判断を下すことが多い印象を受けていますが、デザインリサーチでは、体験を重視します。実際にその場に行ってみる、経験してみるってすごく大事なんですよね。

例えば途上国向けのデザインプロジェクトであれば、実際にその場で暮らしてみたり、働いてみたり、そういった体験を積極的に行っていると聞いています。例えば下記の記事では、P&Gの事例について紹介されていて大変興味深い内容となっています。

business.nikkeibp.co.jp

8. 顧客を理解する vs 顧客と環境を理解する

消費者を理解することで良い提案ができる事は間違いないのですが、それを実現するためにはその消費者が置かれた環境を理解する事が必要です。

例えば、Uberはたいへん画期的なサービスだと思いますが、日本はじめ幾つかの国においては必ずしも成功しているとは言えません。これはやはり、彼らがそれぞれの国の事情を理解せずに同じ形でサービスの提供を行おうと思ったからでしょうか。

先日こんな記事を読みましたが、これにおいても同様のことが言えるのかなと思います。

www.fashionsnap.com

デザインリサーチでは消費者と、それを取り巻く環境がwin-winの関係になれることを目指します。顧客は確かにそれに対して強いニーズを持っているけれども、顧客が所属する組織や社会に取ってそれは良い事なのか?と言う問題意識を持っている人が多いように感じて居ます。

9. 手の中の問題にフォーカスする vs インスピレーションのために積極的に外を見る

デザインリサーチでは積極的に、一見無関係に見えるような領域にヒントを求めることが多くあります。たとえば、工場で複数人が効率よくコラボレーションする方法を模索している時に、病院に行き手術の様子を見学するかもしれませんし、F1のタイヤ交換などピット作業の様子を見学しヒントを得ようとするかも知れません。

解決している問題に関する属性を抽出していくと、それぞれの属性毎であれば他の業界でも同じだよねと言う事は結構多く、そこから意外なヒントを得られる事も多いです。実際問題、ゼロから新しいアイディアを見つけるということは結構な難易度ですので、こう言った活動を通して他領域のアイディアを引っ張ってくると言うのは非常に効率的な活動なのかも知れません。

10. 最後の仕上げにテストする vs プロセスを通してテストする。

下記の記事にも書いたのですが、デザインリサーチではプロトタイピングを通して、短いループを繰り返します。

ddcph.hatenablog.com

最初はLow Fidelityなもので十分なので、とにかくアイディアを目に見える形にすること。そしてそこから改善していけば良いのです。

おわりに

ここで紹介した従来のマーケティングリサーチ、デザインリサーチについては、あくまでも従来の典型的なものです。そして、それぞれが排他的なものであるとも限りませんし、デザインリサーチの手法がマーケティングリサーチに、またはその逆の手法を取り入れる事も有効だと思います。それぞれの目的を達成するために、よりそれぞれが良い方法を模索し、互いに影響を与えられれば理想なのかなぁと思います。