デザインダイアローグコペンハーゲン

デンマークのコペンハーゲンでのデザイン留学を通して考えたこと

仕事に名前を付ける意味

ユーザーセンタードデザイン(User Centered Design)やヒューマンセンタードデザイン(Human CenteredDesign)と言う言葉は、デザインだとかユーザインタフェース、ユーザエクスペリエンスに少しでも関わったことのある人であれば聞いたことのある言葉ではないかと思うのですが、CIIDでは、自分たちが取り組んでいる事を説明する際に、ユーザセンタードと言う言葉は使いません。では、代わりにどんな言葉を使うかと言うと、ピープルセンタードデザイン(People Centered Design)と言う言葉を使います。

People Centered Designと言うキーワードで検索してもあまり多くは引っかからないし、そもそも日本語の情報はほぼゼロなので、もしかすると、ごく一部の組織、デザイナの間だけで使われている言葉なのかもしれません。それにも関わらず、わざわざこの言葉を使い続けている意味ってどこにあるのでしょうか。これに関してひとつは視点の問題があるような気がしています。わかりやすいところではソーシャル的な視点と、時間軸的な視点でしょうか。

ソーシャル的な視点からについて、ますます複雑化する世の中において、我々がデザインしようとしている製品、サービスに関わる人、つまりはステークスホルダーは、ユーザだけでは無いと言う事があげられるということ。

例えば、介護機器のデザインをするとき、ただの例なので、何でも良いんですが、車椅子にしましょうか。普通に考えてしまうと車椅子のユーザは、被介護者ということになりますが、車椅子に関わるステークスホルダーは本当にたくさん居ます。車椅子を押す人は、家族や知人だけとは限りませんし、病院でお医者さんや看護婦酸と何らかのやり取りをする場合もあるでしょう。こういった場合に、被介護者を中心に考えてしまうと、その製品に関わる人が必ずしもハッピーにならない場合があるということ。

そして時間軸的な視点から、そもそもユーザは最初からユーザでは無いし、いつかはユーザで無くなると言うこと。例えば、新しいスマートフォンアプリのデザインを行うことになったとして、ユーザーが実際にアプリを使用する時のことだけを考える事って実はあまりありません。ユーザーがどうやってそのアプリケーションのことを知るのか、知ったあと、どうやってインストールまで導くのか。アプリを使い終わった後はどうするのか。こういった事を考えていくと、彼らはユーザーである以前に人であり、人であるという事は、母であったり、学生であったりと、社会の中で様々な役割を持っていたりするわけです。

つまり、これらの視点から製品を考えた際に、ユーザーセンタードと言ってしまうと、どうしてもユーザのことを中心に考えてしまいがちになってしまうと言う問題があります。これをピープルセンタードと呼ぶ事によって、製品やサービスに関わる多くを見渡せる広い視野を持って仕事に取り組むということを、常に意識することが出来るのではないかと。

言葉遊びと言ってしまえばそれまでなのかもしれないけれど、自分たちがしようとしていること、していることに名前を付けるだけで、仕事に対する意識を変える事ができるとしたら、それはとてもおもしろい事だなと思いました。